大好きだったアイドルの話

最近やっと本当の意味で踏ん切りがついたというか、心の整理ができてきた気がするから、わたしが人生の中でいちばん長い期間好きだったアイドルの話をしようと思います。

 


彼は、アイドルに憧れてアイドルになった人でした。

ダンスとアクロバットが得意で、笑顔がかわいくて、スタイルが良くて、華があるビジュアルで、グループの中では端っこで口数少なくにこにことみんなの話を聞いているタイプなのに、前に出るとやたらと一発ギャグをしたがったりする不思議な人だった。

 


グループがデビューする少し前、テレビの歌番組でソロ曲を披露した彼を観て、「王子様だ」と思ったこと。昔のことを嘘みたいに忘れてしまう自分が覚えているのが不思議だけど、鮮明に覚えていて。

(こんなに好きになったきっかけをはっきり覚えてるのは個人的に珍しいんですよね。)

 


とにかく顔が好きだった!

これを言うと身もふたもない気もするけど、アイドルを好きになる上で「顔が好き」ってことはすごく大事。あくまでわたしの中では。芸能界で一番好きな顔は間違いなく彼だ!とよく言っていました。

 


スキャンダルが出て、撮られた書かれたとなったとき、無関心とまではいかなかったけれど、まあ本人が幸せならそれでいいよね、と思っていたことを、今となってはめちゃくちゃ後悔してる。

 


当時のわたしはあくまでファンで、「オタク」ではなかったから、スキャンダルがアイドルとしての商品価値をいかに下げるかとか、難しいこと考えなかったし、何より本人のプライベートに関心があまり無くて、アイドルとしての姿にしか興味が無かった。


そのスキャンダルの相手が深く関わって何が起こるかなんて、分かるはずもなかった。

 


あの春、わたしが人生で一番長い間好きだったアイドルが、アイドルを辞めた。

 


発表はとある11月の、音楽特番の生放送。仕事中、帰って録画を観るのを呑気に楽しみにしていた。帰りに道にめずらしくスマホを見ることもなくそのニュースを一切知らずに帰宅したその日。

感の良いファンにとっては突然ではなかったのかもしれないけど、わたしにとっては突然の出来事で。

 


家に着くと同じグループの別のメンバーを好きな母が泣いていた。

「田口、辞めちゃうって…。」

 


わたしが人生で一番長い間好きだったアイドルは、「KAT-TUN田口淳之介くん」だった。

 


その日は一睡も出来ずに一晩中泣いた。目が腫れすぎて化粧もままならない顔だけど仕事を休むという選択肢はなくて出勤した。あまりにも顔が酷すぎて、職場の人は誰も何も突っ込めなかったらしく、わたしが田口くんを好きだったことを知っていた同僚もいつも通りに接してくれて、そっとしておいてくれたのが救いだった。

 


脱退は春。それまでは今まで通りにグループ活動を続けるとのこと。

都合よく「卒業」なんて言葉を使われて腹が立ったのを覚えている。ジャニーズには卒業制度なんてものは無いでしょう?


なんで辞めなきゃいけないのか分からないし、辞めてなにがしたいのかも分からない。もうすぐ10周年なのに、どうしてこのタイミングでグループを抜けたいの?ひとりでなにがしたいって言うの?当時、脱退後芸能活動を続けるかも明言していなくて本当に何がしたいの?の気持ちばかりだった。

 


毎週楽しみにしていたグループのレギュラー番組がつらくて観られなくなった。学生の頃からほぼ毎日呟いていたTwitterも開けなくなった。

 


正直に言うと春になるまでに、いつかいつもの笑顔で「脱退なんてウソウソカワウソ!」って言ってくれるんじゃないかって心のどこかでずっと期待してて、我ながら馬鹿だとわかっていたけど、願わずにいられなかった。

 


もちろんそんな日は来ることもなく、彼はグループを脱退して、事務所も辞めた。

 


それから程なくして、ソロ活動が告知された。

応援したいと言う気持ちは一切湧かなかったし活動を追うことは無かったけれど、本人が元気でいてくれること自体は嬉しくて。

きっと長い間噂のあったパートナーと結婚を考えていて、「アイドル」という職業が足枷になってしまうのだろうと勝手に納得していたから、元気で幸せに暮らしてくれればそれでいいと思ったのを覚えている。

 


KAT-TUNが充電期間に入ることを考えるともちろん、彼に向ける感情をすべてプラスのものにするのは難しかったけれど、大好きなKAT-TUNに出会わせてくれたのは他の誰でもなく田口くんだったから。感謝して幸せを願っていた。

 


もっと悲しいことがあるなんて思ってもいなかった。

何があったかはあえて明言しないでおくけれど、それはそれはショックで、悲しくて、腹が立って、感情がぐちゃぐちゃになった。

 


「あの時」あの相手のこと、もっと憎んでおけばよかった。

逆算して、「それ」以前の彼の姿を思い出しては、あの頃の田口くんを返してよ、とばかり考えていたし、正直今でも時々発作のように涙が出る。

本人には責任が無いようなこと言って、擁護して、側から見たら馬鹿みたいだってことは自分でもよくわかっているんだけど。

 


法を犯す前の、きれいな「偶像」だった頃の彼を知ってるから、どうしてもその頃の彼まで否定することも嫌いになることもできなくて。その気持ちはこの先きっと揺るがないから、どんなに外野に馬鹿にされようと構わないと思ってる。

 


まさか辞めた理由がこんなことだったなんて、と最初こそただただショックだったけれど、時間が経つと少しずつ、だからあのタイミングで、あんな風に辞めたのかな、とか、腑に落ちなかったことが不本意ながら色々と理解できてきて。

 


最終的に「KAT-TUN田口淳之介くん」を好きだったこととか、(ほとんど画面越しにしか見たことは無かったけど)彼のパフォーマンスがキラキラしてたこととか、全部事実だし、無理に無かった事にする必要は無いって結論に至って、うまく折り合いが付いたと言ったら変だけど、前を向けるようになった気がしています。

 


うちわとかグッズとかパンフレットとか、何度も捨てようとしたけど捨てられない自分を許せた時、気持ちがスッと楽になって。

 


確かに、「KAT-TUN田口淳之介くん」は、わたしの大好きだったアイドルは、存在していた。

 


そのことを無理に忘れなくてもいいんだ、と今は思っています。

 


こういう風に思えるようになったのって、今のKAT-TUNのメンバーが、何があっても過去を否定しないでいてくれて、タブーにしないでいてくれるからっていうのが大きくて。

そういうところがKAT-TUNの「強さ」で、大好きなところなんですよね。

 


田口くんが辞めても船を降りず、むしろ好きな気持ちは強くなっていって、充電期間に「ファン」から「オタク」になって、初めて担当ができた話は……また今度、出来たらいいなあ…。